東京地方裁判所 昭和47年(ワ)6678号 判決 1974年1月22日
主文
被告らは各自、原告に対して一七万六〇〇〇円とうち一六万円に対する昭和四七年五月一八日から、うち一万六〇〇〇円に対する昭和四七年九月八日から各支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
原告の被告らに対するその余の請求を各棄却する。
訴訟費用は、これを五分し、その四を原告の、その余を被告らの各負担とする。
この判決は、原告勝訴の部分に限り、仮に執行することができる。
事実
第一請求の趣旨
被告らは各自、原告に対して八二万円と内六四万円に対する昭和四七年五月一八日から、内一八万円に対する同年九月八日から各支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
訴訟費用は被告らの負担とする。
との判決と仮執行宣言。
第二請求の趣旨に対する認否
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
との判決。
第三請求の原因
一 事故の発生
原告は、左の交通事故により、その所有に属する自動車(事故車乙)を損壊させた。
(一) 日時 昭和四六年一一月二三日午後二時三〇分頃
(二) 場所 千代田区内神田二丁目一番地先首都高速道路環状外廻り線上
(三) 事故車甲(以下甲車)大型貨物自動車(足立そ五七一一号)
運転者 被告三浦
(四) 事故車乙(以下乙車)乗用自動車(足立三す一号)
運転者 訴外泉静江
(五) 態様 本件道路は片側二車線であるが、走行車線を進行中の乙車右後部フエンダー付近に甲車フロント・バンパーが衝突し、そのシヨツクで乙車が区分線を越えて斜走したところ、高速で進行していた甲車が再度衝突した。
二 責任原因
被告らはそれぞれ、次の理由で本件事故により原告の受けた損害を賠償する責任がある。
(一) 被告株式会社松田鉄工所(以下被告会社)
本件事故は、被告会社の従業員である被告三浦が、被告会社の業務を執行中、(二)記載の過失により発生せしめたものであるから、民法七一五条による責任。
(二) 被告三浦
本件事故は、被告三浦の前方不注意、ハンドル操作不適当(安全運転業務違反)、速度違反の過失により発生したから、民法七〇九条による責任。
三 損害
(一) 車両損 六四万円
(二) 弁護士費用 一八万円
被告らが任意に支払わないので、本件訴訟代理人にその取立を委任した。それに要する手数料、謝金等の費用の額は一八万円である。
四 結論
よつて原告は被告らに対し、八二万円と内車両修理費六四万円に対する、その支払日の翌日である昭和四七年五月一八日から、内弁護士費用一八万円に対する被告会社については本訴状送達の日の翌日であり、被告三浦についてはその後の日である同年九月八日から各支払ずみまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
第四被告ら(請求原因に対する認否)
請求原因事実一の(一)ないし(四)は認めるが、同(五)は争う。すなわち追越車線を進行中の甲車の直前に、走行車線を進行していた乙車が区分線を越えて割り込んで来たために衝突したものである。
請求原因事実二の被告三浦が被告会社の従業員であること、本件事故が被告会社の業務執行中に発生したものであることは認めるが、被告三浦に過失があるとの主張は争う。
請求原因事実三を争う。
第五立証〔略〕
理由
一 事故の発生
請求原因事実一の(一)ないし(四)は当事者間に争いがなく、本件事件の具体的状況は左のとおりである。
〔証拠略〕によると次のとおりの事実が認められる。
(一) 本件事故現場は首都高速環状外廻り線上、竹橋と江戸橋との間、神田橋インター・チエンジよりの道路が合流する地点から江戸橋寄りである。右道路は二車線(走行車線と追越車線)より成つていて、進行方向に従つて、合流点付近で右にカーブをなした後、約四〇メートル直線で、それから再度右にカーブになつている。合流点をすぎた地点から反対車線との間に側壁が設けられている。衝突の地点は直線の部分で二度目のカーブの始まる地点の約五メートル手前である。
(二) 被告三浦は、甲車を運転して、時速約六〇キロメートルで、竹橋方面から追越車線上を進行して来たが、右合流点に達する前、既に走行車線上を進行して行く乙車を前方に発見していた。ところが右衝突地点付近に差しかかつた際、乙車が車線変更をすべく右斜め方向へ進行し、既に車体の一部が区分線を越えているのを、前方約六米の地点に発見し、右転把するとともに制動措置をとつた(スリツプ痕の残つていないこと―伊藤証言により認める。―からすると、急制動措置をとつたとは認め難い。)が、間に合わず、甲車フロント・バンパー左部分を、乙車の右側面後部フエンダーに接触させ、更にフロント・バンパーを乙車右ドアに衝突させて突き破り、結合したままの状態で右斜め前方へ約二〇メートル進行して停止し、停止した際乙車の前部は側壁に接触していた。
(三) 泉静江は乙車を運転し、走行車線上を時速約四〇キロメートルの速度で竹橋方面から進行して来て、後続車の有無を確認することなく進路変更をしようとしたために事故を起すに至つた。
右のとおりの事実が認められ、証人泉静江の証言中右認定に反する部分は、左に述べる理由で措信できず、他にこれを左右するに足りる証拠はない。
泉証人は、走行車線を進行中、後から衝突されたと述べているけれども、右供述は(1)〔証拠略〕によると泉は、事故直後、警官である伊藤に「右折の合図をして、進路変更を始めようとしたところ、衝突された。」旨述べたことが認められること。(2)仮に乙車が走行車線内をそれに平行に進行していたとすれば、甲車は車体の一部を走行車線に入れたまま進行していたか(被告三浦が進路変更をして走行車線に移つたと認めるに足りる証拠はない。)、あるいは衝突前に左折の態勢にあつたかのどちらかになり、高速道路上、予め先行車の存在を知つていた被告三浦の運転方法としては、いかにも不自然であること等の事情および〔証拠略〕に照らして採用し難い。
二 責任原因
被告らはそれぞれ左の理由で、本件事故による乙車の損壊で原告の受けた損害を賠償する責任がある。
(一) 被告会社
被告三浦が被告会社の従業員であり、本件事故は被告会社の業務執行中に発生したものであることは当事者間に争いがなく、後出(二)に述べるとおり被告三浦には本件事故発生につき過失があつたから、民法七一五条第一項による責任。
(二) 被告三浦
前出一において認定した事実に基いて考えるに、被告三浦が乙車の進路変更を発見した時、乙車は既にその一部が区分線を越えていた。高速道路において進路変更をするに際し、急に右折することは通常あり得ず、〔証拠略〕より乙車も通常の進路変更方法をとつたものと認めるべきである(これに反する被告三浦本人尋問の結果の一部は措信しない。)から、被告三浦が、乙車の動静に注意を払つておれば、実際の発見より前に、進路変更を発見して結果回避の措置がとれた筈である。
とすると被告三浦には、先行車の動静に十分注意しなかつた過失があると云わなければならない。
三 過失相殺
被告らは、本件事故の原因は、泉の突然な進路変更にあるとして、原告側の過失の存在を主張しているので判断する。
前出一で認定した事実に基くと、泉は追越車線を後方から進行していた甲車の存在に注意せずに進路変更した過失があると云うべきであり、泉と被告三浦との過失の割合は泉七五パーセント、被告三浦二五パーセントと解するのが相当である。
四 損害
(一) 車両損
〔証拠略〕によると本件事故による乙車の損壊を修理するのに六四万円を下らない金員の支出を要し、それを昭和四七年五月一七日に支払つたことが各認められ、他にこれを左右するに足りる証拠はない。
ところが原告側にも前出のとおり泉の過失があるから、過失相殺をすると被告らに支払を求め得るのは、一六万円である。
(二) 弁護士費用
〔証拠略〕によると被告らが任意に支払わないので、原告は本件訴訟代理人にその取立を委任し、手数料、謝金等として一八万円を支払う約束をしたことが認められるが、認容額、その他諸般の事情に鑑みて被告らに支払を求め得るのにうち一万六〇〇〇円とするのが相当である。
五 結論
よつて原告は被告らに対し、一七万六〇〇〇円と内一六万円に対してはその支払日の翌日である昭和四七年五月一八日から、内弁護士費用一万六〇〇〇円に対しては同年九月八日(本件記録上、各被告とも本訴状送達の日の後の日であることが明らかである。)から各支払ずみまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求め得るから、原告の請求を右の限度において認容し、その余を失当として棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条、九三条、仮執行宣言につき同法第一九六条を各適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 新城雅夫)